出前の「岡持ち」で遊んだ日

ずいぶん長いことすっかり忘れていた、こどものころの記憶が、急に蘇ってきました。
それは、出前に使う「岡持ち」で、友達と「ごっこ遊び」をした思い出です。

小学校の頃、本物の岡持ちを使ってお店屋さんごっこ、出前ごっこをよくしたのです。
その友達の家は町の蕎麦屋さん。古くなってリタイアした岡持ちを、おとうさんから「使って遊んでいい」と言われて、おもちゃ代わりにしたのでした。
これはほかにない、買おうと思って買えない貴重な「おもちゃ」でした。なにしろ本物。
ふつうは手にする機会のないものです。
「出前ごっこ」は客と店の人に役割を決めてやります。
まずお客さん役の子が、電話をかけるまねをします。店のほうの役の子がその電話に出て、出前の注文を受けるわけです。
「もしもし、こちら2丁目の○○ですが、出前おねがいします」
「はい、毎度ありがとうございます。ご注文は何ですか」
「えーと、てんぷらそばと、親子丼と、かきあげせいろを一つずつ。あ、やっぱり親子丼はやめてかつ丼でお願いします」
「はいかしこまりました。今ちょっと混んでますので、少しお時間かかるかもしれません」
「わかりました。でもなるべく早くお願いします。おなかぺこぺこなんで」
とまあ、こんな感じです。そして、いよいよ出前の場面。
岡持ちにノートだとかスリッパだとかを、注文した数分入れて、「ちりんちりん」と口で言いながら、自転車に乗るふりをして、配達するわけです。ところが岡持ちは意外に重い。
こどもにはちょっと荷が重いのですが、それを「うんうん」いいながらがんばって運ぶのが、大人びた気がしてまた楽しいのです。

出前の途中でじっと立ち止まって動かなくなる子がいて、「どうしたの?」と聞いたら、「うん、踏切待ちしてるの」。
そんな手の込んだ演出をすることもありました。
考えてみれば、こどもたちだけで小さなテレビドラマを作っていたわけですね。
「おまちどう」と届けると、お客さん役がそれを受け取り、お金をはらって(これは確か、ほんとうのお金を使っていたような気がします。もちろん10円かそこらでしたけど)
「空いた器はいつものように玄関わきに出しときますから」。
店の役の子が「まいどありー」と立ち去って、「ごっこ」は終了です。

少し記憶違いがあるかもしれませんが、およそそんな遊びでした。
さっきの「踏切待ち」のようなバリエーションを考えながら、役を演じるのがおもしろいのです。
なつかしく思い出しながら、そういえば昔ほど、町で出前の岡持ちを見かけなくなったな、と思いました。
もちろん地域差があって、今でも下町なんかではふつうに岡持ちの自転車が行きかっているのかもしれません。
私が住んでいるのが埼玉県の郊外の住宅地なので、ピザ屋や宅配寿司のオートバイばかり見かけるということなのでしょう。
なつかしい岡持ち。デリバリーではなくあくまでも出前。ところで、今のこどもも「デリバリーごっこ」をしたりしてるんでしょうか。

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